ABU DHABI RACE REPORT:室屋、まさかのオーバーG。その要因

どこに軸足を置くかで評価はガラリと変わる。室屋義秀にとっての2017年シーズン初戦は、そんなレースだったのではないだろうか。

レッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップ2017第1戦。「年間総合優勝」を目標に掲げ、新たなシーズンに臨んだ室屋だったが、開幕戦からラウンド・オブ・14でオーバーGを犯し、DNFという結果に終わった。順位で言えば、ブービーの13位。もちろん、チャンピオンシップポイントはゼロである。

「昨年のシーズンが終わってテクニシャンの変更があったり、いろいろな事情が重なってシーズンオフにちょっと空白期間ができて、冬場の準備が遅くなってしまった。チームに余力がなく、それほど人員をかけられなかったにもかかわらず、アグレッシブに機体を(改良のために)いじり過ぎた面もあるかもしれません。いずれにしても全体的な準備不足、テスト不足。そこは来年のオフシーズンに向けて大きな課題です」

室屋が眉間にしわを寄せてそう話したように、チーム・ファルケンは万全の状態で開幕戦に臨むことができなかった。エンジンのクーリングシステムに変更を加え、さらにはエンジンそのもののシリンダーとピストンを交換した結果、エンジンが完全にオーバーヒートしてしまった。要するに、機体の調整に失敗したわけである。

公式練習、予選のフライトを通じ、室屋の機体は絶望的なまでにエンジンパワーがなく、まったくスピードを出せない。もはや勝負にならない状態に陥っていた。

予選を終えると、チームスタッフはほとんど徹夜で、クーリングシステムを昨年の仕様に戻す作業に取り掛かった。その結果、エンジンは本選当日の朝になって、復調していた。当の室屋でさえ、「まったく無理とは言わないけれど、冷静に判断すれば(エンジンの調子が元に戻る)可能性は2、3割しかないと思っていた」という状態にあった機体は、一夜明け、どうにか臨戦態勢を整えるまでに回復していた。

それでも、やはり遅きに失した感は否めなかった。ハンガー上空でテストフライトを行えば、前日と比べて明らかにエンジンの状態がよくなっていることは分かっても、具体的にどの程度まで回復したのかはトラックを飛んでみなければ分からない。室屋は事実上のぶっつけ本番でラウンド・オブ・14に臨んだ結果、自分が考えていた以上のスピードが出てしまい、フィニッシュ直前の水平ターンでオーバーGを犯す結果になったのである。

室屋にしてみれば、「予選の状態なら9Gまでしかかからなかったターン。起きるはずのないオーバーGだった」。だとすれば、ラウンド・オブ・14を前に、1本でもトラックを飛ぶことができていたら、結果はまったく違うものになっていた可能性は高い。もったいない結果ではあったが、元を正せば身から出た錆である。つまりは、自分たちの失策が最大にして唯一の敗因だったのだ。

とはいえ、である。

室屋が「レースをできる状態ではない」と、なかばあきらめかけたほど、もはや"死に体"だった機体を、わずかな時間でここまで回復させたチーム・ファルケンの仕事は称賛に値する。起きるはずのないオーバーGが起きたことは、裏を返せば、それほどのスピードを取り戻していたことの証でもある。

そして、チームスタッフの努力に応えるように、室屋もまた、パイロットとしての自らの務めをしっかりと果たした。

「狙ったところを寸分の狂いもなく飛べた感じ。フライトは完璧だった」

そう振り返る室屋がラウンド・オブ・14で叩き出したタイムは、52秒126(DNFのため、公式記録上はタイムなし)。もちろん、それぞれの対戦に駆け引きがあり、単純にタイムの比較はできないとはいえ、それはラウンド・オブ・14全体での圧倒的なトップタイムに相当する。室屋が続ける。

「ポテンシャルとしては十分なものを示せたし、年間総合優勝のことを考えれば、ポイントなしに終わったことは痛いけれど、そんなに失望する結果でもない。このレースをどう捉えるかは難しいですが、昨日(予選)のことを思えば、今日(本選)は天国のよう。フライトは計算通りのところを飛べているので、極めて状態はいいと思うし、結果はひとまず置いておくとして、自分のコンディションは非常にいい感じなので、これを保っていきたい」

次戦に向け、問題となったエンジンの状態についても、「準備不足は大きな反省ですが、(オーバーヒートの)解決策は見えているので、そんなに心配しなくていいと思います」と、室屋は前向きに語る。

長いシーズンのなかでは、すべてが予定通りに進むはずもなく、想定外の事態は起こりうる。だが、そんなときにこそ、どんな対応ができるかが勝負を分ける。問われるのは、チームの総合力。自ら招いたピンチとはいえ、チーム・ファルケンが見せた緊急事態への対応は大健闘と言っていいのではないだろうか。よくぞここまで立て直したものである。

2017年初戦は結局、マルティン・ソンカが初優勝。2位には初の表彰台となるフアン・ベラルデが入り、これまでのレースとは違った新鮮な印象を残して幕を閉じた。

すべてのラウンドで僅差の勝負が繰り広げられており、ふたりのルーキーも含め、実力は拮抗している。年間総合優勝争いも、まだまだ予断を許さない。当然、室屋の巻き返しもあるだろう。

2017年のレッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップは、例年になく群雄割拠。すべてのレースが目の離せない戦いとなりそうだ。

(Report by 浅田真樹)

 

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