“ゴーストプレーン” のテクノロジー

Red Bull Air Raceとファンの距離をより身近にするヴィジュアル・テクノロジーの秘密を探る。

The Ghost Plane

Red Bull Air Race World Championshipで常に新しいテクノロジーを追求しているのはレースチームだけとは限らない。レース運営に携わるチームもまたファンたちにこの世界最速のモータースポーツの魅力を最大限に伝えるべく日々努力を重ねているのだ。その努力の結晶のひとつが、レース中継映像で目にしているお馴染みの "ゴーストプレーン" だ。

 

2014年にRed Bull Air Raceを再開するにあたり、パイロット同士の熾烈な直接対決を会場のビッグスクリーンや中継画面でいかに分かりやすく表現するかというテーマは非常に大きな課題となっていた。とはいえ、2機が同時に同じレーストラック上をフライトすることは不可能なため、バーチャルの世界の助けを借りる必要が出てきた。

Red Bull Air Raceの中継は、Netventureをはじめ、TellumatやRace Time Proなどの複数のテクニカルプロバイダー/サプライヤーが共同で行なっており、中継時に目にする様々なグラフィックスも彼らが手掛けている。NetventureがRed Bull Air Raceからバーチャルな機体を画面に表示したいという要望を受けた当時、そのようなテクノロジーが実用化された前例はなかったため、Netventureの開発チームは新たなシステムを構築する必要があった。Netventureでマネージング・ディレクターを務めるステファン・メイヤーは「Red Bull Air Raceはパイロット同士の直接対決をファンに対して視覚的に分かりやすく提示する方法を求めていました。ですが、レーストラック上で2機を近接距離で同時にフライトさせることは不可能です。そこで、彼らは "現在どのパイロットがリードしていて、どのパイロットが遅れているのか" をバーチャルな視覚情報としてファンに伝えたいという要望を伝えてきました」と振り返る。

しかし、このような試みは前例がなかったため、Netventureは、世界記録ペースをプール上にラインで表示し、選手たちがその記録に対してどれだけ近いペースで泳いでいるかを視覚的に表示する競泳など、他のスポーツ中継を参考にした。「競泳はプール上にラインを表示するだけで済みますが、Red Bull Air Raceでは3次元で表示しなければなりません。そのため、我々は全く新しい方法を考案する必要に迫られました。バーチャルな機体をラップタイムに準じた正確な位置で表示する必要があるので、単なる2次元のライン表示よりもはるかに高度な方法が求められました」とメイヤーは説明する。

開発プロセスは、まずデザイナーたちにRed Bull Air Raceからの要望を伝えることから始まり、それからメイヤーとスタッフ陣がテクニカルな部分に取り組み始めた。「我々はできるだけ多くのデータを収集しつつ、3次元空間における機体の位置とカメラの配置を正確に知る必要がありました」

「我々はそのようなすべてのデータを記録し、ラウンド・オブ・8やファイナル4などで2番手以降がフライトする時に、そのようなデータを再現して直前の機体(対戦相手)をバーチャル・グラフィックスで画面上に表示することにしました。バーチャルと現実のデータを正確に組み合わせれば、2機の機体が同時にレーストラック上をフライトしているように見えるのです」とメイヤーは説明する。

Netventureはこの "ゴーストプレーン" を表示させるために2台のカメラを使用している。これらは標準的な放送用カメラだが、特殊なセンサーが追加されている。クレーン上にカメラを設置し、クレーンごとカメラを動かすようになっている(地上80mの高さで上下左右に動くため、このポジションにつこうとするスタッフは少ない)ため、Netventureにとっては、カメラが揺れても決められた位置にゴーストプレーンを表示させるための技術を編み出すのが問題となった。「取り付けられたセンサーは、カメラのポジションや焦点を正確に伝えることができるため、我々は現在フライトしている機体の映像にゴーストをちゃんと重ねることができます。つまり、たとえカメラマンが急に左右にパンしてもゴーストプレーンはリアルタイムで正確な位置で表示され続けるのです」とメイヤーは説明する。

データは非常に正確な機体のGPSセンサーから送られてくる。機体が移動することで、GPSセンサーが人工衛星の範囲内から外れてしまう時もあるが、その際は慣性システムを併用して機体の位置情報が確認される。レース機体は非常に高速で動き、移動距離も長いため、移動データは収集しやすい。一方、カメラが動く範囲は限られているため、事前のキャリブレーション(測定基準の設定)は入念に行われ、セッション中にも定期的にチェックが行われる。ゴーストプレーンを正確に動作させるため、担当スタッフ陣はカメラに対するキャリブレーションを毎日欠かさない。前述の慣性システムのセッティングには、通常2時間ほどを要する。メイヤーが説明する。「これはカメラの動く範囲がごく限られており、その動きもスローだからです。機体側のシステムのキャリブレーションは、機体の動きが速く、位置も確認しやすいため簡単に終わりますが、機体が長距離を移動するのに対し、カメラはほとんど動きませんので、より正確なキャリブレーションを施す必要があります」

開発チームは2014年からゴーストプレーンに取り組み始め、2015シーズン途中に実用化にこぎつけた。現在我々がRed Bull Air Raceの中継映像などで目にしているゴーストプレーンは、多くの開発スタッフが密接に共同作業を行なった成果なのだ。Red Bull Air Raceのレース現場においてNetventureチームを統括するトム・コプリウッツは、スクリーン上に重ねられたゴーストプレーンを初めて見た時の感想を「ただただ、感激で言葉を失いました」と語っている。

コプリウッツは「ルックスも申し分なかったですね。現在、我々はこのシステムを各レースで使用していますが、実はまだ開発が続いています。新しい要素や機能の追加を計画していますし、これからも進歩を遂げるはずです」と結んでいる。

ゴーストプレーンが使用された映像(英語音声)