Race Report : 波乱と歓喜に満ちた千葉決戦

優勝者として初めて臨むレース後の公式記者会見では思わず声がつまり、瞳は潤んだ。

「自分個人としては操縦技術世界一というものを目指して、ずっとやってきました。なかなか一番は届きそうで届かないという、本当に難しい世界だったんですけど、25年かけてやっと取れました。本当に......、そうですね......、ちょっと一息つくかなというところです」

千葉・幕張海浜公園で開催されているレッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦。室屋義秀は地元・日本でのレースで、悲願の初優勝を成し遂げた。地元での開催に高まる期待。室屋にとって事前の準備において有利な面がある一方で、プレッシャーもいつも以上に大きかったはずだ。実際、優勝までの道のりは決して平坦なものではなかった。

前日の予選は、強風と高波によりキャンセルとなった。室屋はトレーニング1で3位、トレーニング2ではトップのタイムを記録しており、予定通りに予選を飛べれば有利な組み合わせでラウンド・オブ・14を戦えるはずだった。

ところが、予選中止により、ラウンド・オブ・14はチャンピオンシップポイントランキング(年間総合順位)で組み合わせが決められた。室屋の順位は11位。いきなり同4位のピート・マクロードと対戦しなければならなくなった。しかも、ラウンド・オブ・14ではスモークが出ないトラブルが発生。1秒のペナルティを喫し、万事休したかに思われた。だが、後から飛んだマクロードがまさかのオーバーGでDNFに。室屋は過去2戦で悩まされ続けてきたオーバーGに、今度は自分が救われる形でラウンド・オブ・8に進出した。幸いにして、スモークが出ないトラブルも、「ラウンド・オブ・8までの1時間の間に、メカニックたちが必死になって直してくれた」。次々に襲い掛かるアクシデントも、チームワークで乗り切った。

存分に力が発揮できる状況を作れてしまえば、今の室屋は強かった。

ラウンド・オブ・8は、現在チャンピオンシップポイントランキングでトップに立つマティアス・ドルダラーとの"事実上の決勝戦"。まさに優勝の行方を占う大一番だったが、先に飛んだ室屋は自身最速の1分4秒610という圧巻のタイムを叩き出した。すると、少々無理をしてでも攻めざるを得なくなったドルダラーは、痛恨のオーバーG。室屋は宿敵でもあり、大の親友でもあるドルダラーを力でねじ伏せ、ファイナル4に進出した。

そして迎えた、ファイナル4。2番目に飛んだ室屋は1分4秒992を記録し、最初に飛んだナイジェル・ラムのタイムを楽々と上回る。これで室屋の表彰台は確定。あとは順位だ。続くカービー・チャンブリスが途中のラップでは室屋のタイムを上回っていたものの、最後に後れ、この時点で室屋の自己最高順位となる2位以上が確定。室屋自身はもちろん、幕張海浜公園に詰めかけた5万人の観衆が待ち望む初優勝の成否は、最後に飛ぶマルティン・ソンカのフライトに委ねられた。

チャンブリス同様、最初のラップではソンカが上回る。そして、2カ所目のラップもソンカ。ソンカはラウンド・オブ・14で第3戦全ラウンドを通じて最速のタイム、1分4秒352を出しているのをはじめ、この日安定したフライトを続けている。もはや、このまま逃げ切ってしまうのか。そんなムードが漂った。だが、通称「マクハリターン」として各パイロットが恐れていたバーティカルターンを前に、正確無比なフライトを続けていたソンカにわずかな躊躇が生まれた。「分析してみないと確かなことは分からないが、オーバーGを恐れ、少し慎重になってしまった」。レース後、ソンカ自身がそう振り返ったように、3カ所目のラップでついにソンカは室屋のタイムに後れを取った。

期せずして、大観衆から悲鳴とも歓声ともつかぬ大きな声が湧き上がる。誰もがじれったい思いを抱え、残り20秒足らずのわずかな時間が過ぎるのを固唾を飲んで待っていた。ソンカがフィニッシュゲートを通過。その瞬間、時計は1分5秒097を指して止まった。と同時に、観客席となっている浜辺のあちらこちらで歓喜がはじけた。

室屋の初優勝が決まった瞬間だった。

「日本でのレースは地元でセットアップできる半面、多くの注目あって取材も多く、時間の調整が難しいところもある。でも、これだけ多くの人に注目してもらえたことで、マルティンとは0.1秒差でしたが、最後はファンブースト(ファンの後押し)で優勝を成し遂げられたのではないかと思います」

室屋はそう語り、大観衆の後押しに感謝の気持ちを表した。思えば昨年、日本初開催のレッドブルエアレースを8位で終えてもなお、室屋は「人生最高の日」と語り、ただただ笑顔だった。しかし、今年の室屋は、成績は大きく上がったにもかかわらず、終始笑顔というわけにはいかなかった。潤む目から時折、こぼれ落ちそうになる涙を必死で抑えなければならなかったからだ。

「最高の日をひとつ更新した。また"新たな最高の日"を過ごさせてもらいました」

レッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦のチャンピオンに、ようやくいつもの笑顔が多くなったのは、国際映像用の公式記者会見が終わり、地元・日本のメディアを対象にした記者会見に移ってからだった。

「これから打ち上げでラーメンを食べに行きたいのですが、優勝したので餃子をつけようと思います」

"いつもの室屋"が、会場を埋め尽くす報道陣の笑いを誘った。今回の初優勝で15ポイントを獲得した室屋は、チャンピオンシップポイントランキングでも11位から4位にジャンプアップ。今季の目標にかかげる「年間総合で表彰台」を達成するべく、上位争いに割って入ってきた。

室屋が勝った。ついに勝った。

 

 

(Report by 浅田真樹)

 

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