RACE REPORT:室屋、現王者すら寄せ付けぬ速さで逆転優勝

もう涙はなかった。優勝トロフィーを掲げる室屋義秀の顔に浮かんでいたのは、落ち着き払った笑みだけだった。

レッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップの第2戦がアメリカ・サンディエゴで行われ、室屋義秀が2度目の優勝を果たした。

「2勝目はもうちょっと早く取れるかなと思っていたんですけどね」

本人が苦笑いでそう告白したように、昨シーズン第3戦の千葉で涙の初優勝を遂げて以来、室屋はしばらく勝ち運に見放されてきた。室屋の優勝はもちろん、表彰台に立つのも、そしてファイナル4に進出するのも、昨シーズンの第3戦以来のことである。

機体も、パイロットも、決して調子が悪かったわけではない。だが、いわばちょっとした歯車の狂いから、なかなか上位に勝ち上がることができずにここまで来た。室屋自身、千葉で表彰台の真ん中に立ったときには、これほど長くシャンパンファイトから遠ざかるとは思っていなかったに違いない。

チーム・ファルケンを悩ませ続けてきた歯車の狂いを、決定的に印象づける形となったのが、2月にアブダビで行われた今シーズンの開幕戦だった。

公式練習中から(さらに言えば、それ以前の準備段階から)エンジンがオーバーヒート状態になり、まったくパワーが出ない。予選の結果は10位。もはやパイロットが少々無理なラインを選択したところで勝負にならなかった。

翌本選日になり、エンジンの状態はずいぶんと回復した。だが、その程度具合を確認できないままにラウンド・オブ・14のフライトに臨んだ末にオーバーGを犯し、あえなく初戦敗退。最終順位は13位に終わっていた。

そして迎えた、今回の第2戦。公式練習では好タイムを連発しながら、予選のフライトではペナルティを取られ、またしても開幕戦と同じ10位に沈んだ。どこか流れに乗り切れない。チーム・ファルケンの歯車には、相変わらずわずかな狂いが生じているかに思われた。

ところが、である。予選を終えた室屋から伝わってくる雰囲気が、どこか今までとは違っていた。語り口に単なる強がりではない自信が感じられ、落ち着きがあった。前日の心境を振り返り、室屋が言う。

「チームのセットアップとして、十分に勝てるだけのポテンシャルをもう確実に持っている。それは実際、公式練習から出せていた。だから、"ちゃんと"飛べば勝てるっていう確信があったのかもしれません」

とはいえ、どんなに公式練習でのタイムがよかったにしても、事実、予選のフライトでは(しかも2本とも)ペナルティを犯している。にもかかわらず、勝てるという確信を持つことは簡単ではないはずだ。室屋は自身の心理状態が、チームのサポートに強く支えられていたものであったことを明かす。

「予選のフライトを全部レビューして、ベン(レース分析担当のベンジャミン・フリーラブ)をはじめチームスタッフが昨日(予選日)のうちに解決してくれて、どこが問題でどう直せばいいのかっていうレポートが朝には出てくる。昨日の問題点を修正できたことでフライトの内容も非常によかったですし、ペナルティになるような際どい部分さえなかった。そういうチーム体制も含めて自信があったからこそ、確信を持てたんだと思います」

だから、まあ......。室屋はそう続けると、ホッとしたように本音を漏らした。

「その分、(勝てるかどうかは)パイロット次第なので。プレッシャーが大きかったと言えば大きかったですけどね」

室屋はプレッシャーをはねのけ、"ちゃんと"飛んだ。

特にファイナル4で見せたフライトは、圧巻の一言だった。「いわゆる、"ゾーン"に入っていた」と振り返る室屋が叩き出したタイムは、58秒529。この日の全ラウンドを通じて最速となる驚異的なタイムを出されては、さしもの昨年年間王者マティアス・ドルダラーもペナルティ覚悟で無謀なラインに突っ込むしかなかった。結果はパイロンヒット。ドルダラーに続き、カービー・チャンブリス、ピーター・ポドランセックがラストフライトに挑むも、1分を切ることさえできなかった。

室屋は2位のポドランセックにおよそ2秒もの大差をつけて、追いすがるライバルたちをねじ伏せたのである。

年間総合優勝を狙う――。

室屋は2017シーズンを前に、高らかにそう宣言した。

だが、アブダビで行われた開幕戦の結果は、そんな自信に満ち溢れた言葉にはそぐわないものだった。どんな理由があったにせよ、13位に終わったショックは決して小さくなかっただろう。チャンピオンシップポイントもゼロに終わり、年間総合優勝争いでも大きく出遅れる結果となった。

それを思えば、わずか2カ月でメカニカルな部分でも、メンタルな部分でも、室屋は、そしてチーム・ファルケンはよく立て直した。しかも、ラウンド・オブ・14ではピート・マクロード、ラウンド・オブ・8ではマルティン・ソンカ、ファイナル4ではドルダラーと、開幕戦でファイナル4に進出していた3人を自ら倒したことで、彼らのポイント獲得を防ぐことにも成功した。

室屋が「開幕戦での出遅れから、ポイント差があまり開かないうちに追いつけたことはよかった」と語るように、各ラウンドでライバルとの直接対決を制して優勝したことの意味は大きい。今回の優勝で15ポイントを加算した室屋の年間総合順位は、13位から3位へジャンプアップ。21ポイントでトップのソンカとは6ポイント差まで大きく縮めた。

とはいえ、あくまでも目標は年間総合優勝である。その意味で言えば、室屋はまだ何も成し遂げてはいない。

「全8戦中5戦くらいはファイナル4に残って、そのうち2勝くらいする必要がある。まず1勝できたことはよかったが、アビダビでポイントを落としているので、残り6戦は確実に飛ばなければいけないと思っています」

室屋がそう語る通りだ。

室屋は今シーズンの開幕前、年間総合優勝へのカギとして「安定して飛ぶこと」を挙げている。「無理をして1戦ごとの優勝にこだわるとよくない。常に能力の100%を出すことに集中していく」ことこそが、頂点に立つためには重要な要素なのである。

冒頭に記したように、昨シーズンの室屋は第3戦に勝った後、優勝どころか、一度もファイナル4にすら進めなかった。今の彼が昨年の自分とは違うのならば、それは今後のレースで証明していかなければならない。

室屋義秀は年間総合優勝にふさわしい資格を備えているのか。6月に開かれる第3戦は、そんな問いに答えを出す絶好の機会となる。

会場は昨シーズン、室屋がうれし涙にくれた千葉・幕張海浜公園。思い出の地につめかける大観衆は、きっとまた強い室屋が見られることを楽しみにしている。当然、室屋も必勝態勢で準備を進めるはずだ。

第3戦まで、およそ1カ月半。楽しみな舞台が整いつつある。

 

(Report by 浅田真樹)

 

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