2つの顔を持つ男、ポール・ボノム

Red Bull Air Raceのエースパイロット、ポール・ボノムにはもうひとつの顔がある。

Bonhomme's two modes of transport

Red Bull Air Race World Championship史上最も大きな成功を収めているパイロットとして知られるポール・ボノムはもうひとつの顔を持つ。それはブリティッシュ・エアウェイズのBoeing 747の機長としての顔だ。

高度11890mの大空を飛ぶ大型旅客機の機長としての生活と、地上ギリギリを飛ぶシングルシートのレース機パイロットとしての生活はどう違うのだろうか? Red Bull Air Race World Championshipを2度制したボノム本人が説明する。

「大きな違いのひとつは機体そのものだ。Boeing 747は安楽椅子に座っているようなもので、快適性・安全性が最優先される。一方、レース機はスピード・パワーが重視される。その差は乗客に訊ねてみればいい。旅客機は大きくゆったりとしているので、彼らは飛んでいることさえ気付かない。だが、レース機ならば『降ろしてくれ』と叫ぶだろう」

両機のサイズや性能は大きく異なるが、ボノムは自分の仕事という意味では非常に似ていると表現する。「飛行を管理するという点では非常に似ている。事前準備はどちらも同じだ。しっかりと準備することで起こり得る問題を回避する」

「Boeing 747を飛ばすためには、あらゆる部分で細かい準備が求められる。フライトプラン、メンテナンス、ケータリング、勤務シフトなどがあり、すべての項目でしっかりとした事前準備が必要になる。Red Bull Air Raceの場合も、関わる人数が少ないだけで、準備の内容は同じだ。3、4人で準備してレース機を飛ばす。Boeing 747の飛行時間が10時間から12時間なのに対して、レース機の飛行時間は1分程度ということを踏まえると、飛行時間が長くなるだけ準備に必要な人数と労力が増えると言っても良いだろう」

Red Bull Air Raceとヨーロッパ−北米間の長距離フライトは準備面では似ているが、コクピットに座ったあとは異なるとボノムは説明する。「レースの方が肉体的には厳しいが、一般的な『疲労』という意味で言えば、長距離夜間飛行を終えたあとの方が辛い。長距離飛行を終えた乗客は誰しも『フライトが辛かった』と言うだろうし、その上、時差もある。一方、レーストラックを1周したあとは適量のアドレナリンが放出されるだけなので、元気に笑顔を見せるだけだ」

「音楽に例えて言うならば、Red Bull Air Raceの方がテンポは速い。また、長距離飛行がスムースで優しいフルートのソロだとすれば、レースはスラッシュメタルだ」

レースの世界では勝利ほど嬉しいものはないが、旅客機の世界ではフライトを管理して、あらゆる問題を回避することが喜びになるようだ。ボノムが説明する。「Boeing 747では、他の空港に進路変更できるだけの十分な燃料を残した状態で、オンタイムで目的地に到着できた時が本当に嬉しい。悪天候を抜けて雪の降る中で着陸した時は特にそうだ。こういうコンディションでの着陸はそれだけでチャレンジになるし、進路変更して他の空港に着陸するよりも満足度は高い」

また、搭乗する機体がEdge 540であってもBoeing 747であっても、フライト自体には共通点があるとボノムは説明する。「Red Bull Air Raceでは、効率よく機体を操縦して、エナジーを上手く利用しながら最速タイムを目指す。一方、レース機と同じアプローチではないにせよ、Boeing 747でも速く飛ばそうとする。例えば、高度11580m、追い風16km/hの状態で飛行している時に、高度11890mで24km/hの風が吹いているとすれば、3時間で24kmもの距離を稼げる。6400kmの長距離フライトの中の24kmはたいした距離ではないと思うかも知れないが、これを積み重ねれば大量の燃料のセーブに繋がる」

「Red Bull Air Raceでは、ラインの違いで0.1秒削れるなら、そのラインを試してみるという視点から効率を求めているが、Boeing 747では、燃料と時間をセーブするという視点から効率を求めている」

Red Bull Air Race第5戦アスコットは8月15日・16日に開催される。

ポール・ボノムのBoeing 747とEdge 540