予選レポート:室屋、10位と出遅れるも最速タイムを叩き出す

カリフォルニア特有の暖かな日差しを浴び、見慣れぬ機体がサンディエゴの空を気持ちよさそうに飛んでいた。

レッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップ第2戦。2009年以来、8年ぶりにレッドブルエアレースが開かれるサンディエゴに、ニューカラーの機体を持ち込んでいたのは室屋義秀だった。

「新生チーム・ファルケンは、飛行機の色も塗り替えて気分一新。ここから新たなスタートですね。アブダビでは散々な目に遭ったので、それを忘れるためにも今回の塗り替えはよかったかな」

満面も笑みをたたえ、そう語る室屋の視線の先にあったのは、機体そのものはこれまでと変わるところのないエッジ540V3である。だが、身にまとう"衣装"は大きく様変わりした。機体のカラーリングが、これまでのシルバーから一転、薄い緑と青に染め分けられたものへと変更されたのである。

ずいぶんと大胆なイメージチェンジではあるが、時折太陽の光をキラキラと反射させながら飛んでいる姿を見ると、これがなかなかカッコいい。塗装に少々時間がかかってしまったため、室屋は「当初見込んでいたよりも機体の調整も含めたフライト時間が短くなってしまった」とわずかに愚痴をもらしはしたが、その出来映えにはずいぶんと満足そうな様子を見せた。

思えば、今季開幕戦のアブダビではエンジンの調子がまったく上がらず、オーバーヒート状態で予選を飛ばざるをえなかった。本選日になり、どうにかエンジンは調子を取り戻したものの、室屋はその回復状態をつかみ切れないままレースへ挑んだ結果、ラウンド・オブ・14でオーバーGを犯し、あえなく初戦敗退に終わったのである。それを考えれば、今回の機体(特にエンジン)のコンディションは、前回とは比べようもなかった。

「(開幕戦後に)改造はせずに、調整をしただけです。なので、全部バランスを取り直して、昨年の状態に戻しているという感じです。本当ならアブダビに、この状態で入っているはずだったんですけどね」

約2カ月前の苦い記憶も、今では笑って話せるほどに調子が上がっていることは、タイムを見れば明らかだった。

予選前日の4月14日に行われた2本の公式練習では、いずれも59秒台のタイムを出し、順位のうえでも2、3位。いろいろなラインを試し、「これが限界だな」とか、「でも、このラインを取るとかなりタイムは縮まるな」とか、情報を集めながらも確実に好タイムを記録していた。

さらには、予選日の4月15日に行われた3本目の公式練習では、室屋は1本目から3本目までを通じて最速となる57秒台のタイムをただひとり叩き出した。もちろん、3本目の順位はトップ。数時間後に行われる予選のフライトへ向け、大きく期待が高まる公式練習だった。

しかし、好事魔多しとはよく言ったものである。絶好調と言ってもいいほどの状態にあったはずの室屋に、意外な落とし穴が待っていた。

「ちょっと失敗でしたね。うーん、もったいなかった」

予選のフライト後、苦笑いを浮かべながら、室屋はそう切り出した。公式練習でのタイムがよかっただけに、本人にもこんなはずじゃなかったという思いが少なからずあるのだろう。室屋が「もったいない」の理由を明かす。

「(公式練習とは)ラインを少し変えて飛んだんですけど、それが若干失敗だったかな」

前述したように、室屋は公式練習を通じていくつかのラインを試していた。とりわけ最後にスーパーラップを叩き出したフライトは、室屋の言葉を借りれば、「そこまでやらなくてもいいという飛び方だった」。リスクを最大限に負った攻めのフライト、とでも言おうか。

だが、予選の段階でそこまでの無理をする必要はない。多少タイムを落としたところで問題はない。室屋はリスクを減らし、安全方向に舵を切った、はずだった。ところが、室屋の意に反し、「ちょっと落としたつもりだったのが、ラインを変えたことで全体にスピードが変わってきて、フライトのバランスが崩れてしまった」のである。

結局、室屋は2本の予選フライトでともにペナルティを取られ、タイムはどちらも1分1秒台。順位も10位にとどまった。終わってみれば、大苦戦を強いられた開幕戦での予選順位と同じ結果である。

それでもアブダビのときとは違い、室屋の表情に暗さはない。

「実際、タイム(ペナルティを除いたランタイム)では4位に相当するわけだし、ペナルティにしてもかするような(際どい)ものでしたから。明日は確実に飛べば問題ない」

事もなげにそう語る室屋に、ラウンド・オブ・14での対戦がピート・マクロードに決まったことについて問うても、「トレーニング(公式練習)通りに飛ぶだけなので、そんなに心配する必要もない」と、そっけない反応。同じレーストラックで、しかもたまたま1本だけではなく、3度の公式練習を通じて好タイムを出せているという自信が室屋を強気にさせる。

加えて言えば、ここサンディエゴは室屋が2009年のルーキーシーズンに初めてチャンピオンシップポイント「1」を獲得した、記念すべき場所でもある。「何となく験のよさを感じる」という室屋は、同時に、「うちのチームにはカリフォルニアをベースに活動しているスタッフが多いので、サンディエゴは近くてすごくやりやすい。ホームレースに近い感覚でやれている」と続ける。

そして翌日の本選レースに向けても、室屋の言葉は力強かった

「(カギになるのは)安定して飛ぶことでしょうね。トレーニングはずっといいペースで飛べていたので、予選では少し失敗がありましたが、もう一回フライトを整理して無難に行けば大丈夫だと思います」

予選順位は開幕戦と同じ10位。しかし、その中身はまったくの別物。室屋の言葉と表情が、確かな手応えをはっきりと示している。

 

(Report by 浅田真樹)